創作・・「噂の女」(他小説投稿サイトに公開済み)

美容室に行った折、隣で白髪をカットしていた女性がいた。
ベリーベリーショートに、何気に隣の鏡を見ると、おばあさんだった。
住んでいる地区の美容室ではなく、職場から近いビルの中にある美容室で、私は初めての店だった。
仕事が終わったのだけれど、
夜、彼に逢う約束があり、
少し髪に色を入れて、5ミリほどカットしてもらおうと、初めてではあったけれど、社内の女性達がオススメする店だった。
お隣のおばあさんは、カツラの手入れを頼んであったようで、カットが終わると、全カツラを付けてもらって、
「あら、、いいわ!」
で、終了したようだった。
レジの方から、
「またのお越しを、、」
「来月また来るわ、よろしくね、」
「アキヤマ様、ご主人様にもよろしく、、またお待ちしております、」
その会話を聞いて、あれ?!と、一種の既視感のようなもの。
アキヤマという、おばあさんは知る由もないけれど、
アキヤマという姓は記憶があり、、
あれ?あれ?
髪にカラーリングしてくれている美容師さんが、
「何か?」
「今の方、どこかで会ったような感じでしたから、」
「あ、さようでございますか?
円山にお住まいですよ。ご主人は、この店で働いていたんです。」
「あら、、私も円山ですから、どこかで会っているのかもしれませんね、、シルバー世代が多い地域ですからね。」
美容師さんは、さっと屈むような格好になり、
ヒソヒソと、私の耳元に
「あの方、まだ還暦過ぎたばかりですよ、
でも、おばあさんみたいですよね、」
「あら、それじゃあ、私とそんなに変わらないわけ? 失礼かもしれませんが、濃いお化粧してましたけど、
80近いと、見えましたけど。」
美容師さんは、我が意得たりの感じで、
「私も同じです。本当のお年を聞いてびっくりでした。」
若い時から、化粧が濃い、髪をいじり過ぎた女性は、肌も髪も一般より老化する。
まさにそれだわと納得していたのですが。
50がらみの美容師さんは、
「うちで働いていた美容師と恋をしたかなんか知りませんが、
あの方よりひと回りは下なんですよ。旦那は、、
一緒になった、正式に結婚したと聞いたときは、びっくりでした。」
私は、その50がらみの美容師さんが言いたいことは、ピンときた。
年上であっても、美人であれば、まだ、納得するのだけれど、、そう言いたいのだろう。
「その旦那様は、こちらのお店は辞めたのですか?」
「ええ、それが、、事故に遭って、長い間入院、リハビリしていたはずです。」
その美容師さんは、
まだまだ話したい様子だったけれど、次々とお客様が入ってきて、
私の髪は、若い男性美容師さんに変わってしまった。
ほどなく、私はふんわり柔らかそうにアップにしてもらったヘアスタイルに満足して店を出た。
堅苦しい仕事中は、髪は下ろしてダークスーツスタイルなので、夜、彼に逢うときは、髪はシニヨンにしたり、アップにしたりする。
彼は私のうなじが好きらしく、逢うときには、なるべくアップスタイルで、ダークスーツを脱ぎ、体にフィットした洋服にしている。
長い間付き合ってきて、互いに結婚しようかと考えたこともあったけれど、
そのまま、2人ともに独身を通して今に至る。
互いに還暦近い年齢になると、月に2回か3回逢ったとしても、情熱のようなものは消えている。
彼は、吉田。アキヤマ?!?あ、、あ、彼の友達にアキヤマっていた、
そうだわ、弟が美容師になったと、でかい体して、女性相手の美容師なんか、よく出来るなと、
お兄さんが話していた。
そう、それ、彼の仲良しのアキヤマさんは、私もよく知っている。
彼も非常にガタイが大きい。奥さんも、びっくりするくらい大きな人だった。
一緒に食事をした時に、釣り合いがとれている夫婦だと感じた記憶がある。そのアキヤマさんの弟が、
あのケバケバでカツラお婆さんと結婚した?
ちょっとピンとはこなかった。
わからないものですからね。夫婦はわかりません。
それからしばらくしてから、町内の噂話に詳しい女性と、スーパーの帰り道に一緒になり、2人で歩いていたとき、
何気なく、例のお婆さんに見えるケバケバさんのことを訊いてみると、
「あ、知ってる、知ってる、、ほら、
坂を登って左側に、古いマンションあるでしょう、
、もう建て替えるんじゃない?と噂になってた、」
「ああ、、、グレーの、、」
「あそこに、越してきたのよ。旦那さん、巨体よ!! お母さんと暮らしてるのかと思った、、
奥さんだと聞いてビックリしたわ。」
「まだ、60そこそこらしいわね。」
「巨体の旦那は50になったばかりみたい。」
「ふ〜ん、、人の好みは、十人十色ですからね。」
「ご主人、事故に遭ってから、
あまり働いてないみたいですよ。旦那さんの兄弟が、援助してるらしい、」
「そうなの、、」
「あの化粧の濃い奥さん、
3回目らしい、バツ2で、3回目の結婚。
相手、2人とも死んだらしいから、相手を不幸にする女なんだわ、きっと。
私は仲良くしないようにしてるわ、、あなたも、接触しないほうがいいわ、
死神みたいなものよ、」
死神?!
噂は際限なく、尾ひれがついて、とんでもない話になる。
帰宅して、母にその話をすると、
厳しい母は、
「知ってますよ、アキヤマさんでしょう、
あの人、男無しでは暮らせないタイプよ。
だから、
異常に老けて見えるのよ!
あなたと同じくらいの年齢になんて見えないでしょう、ごてごて化粧して、髪も、カツラよ!
噂では、
相当の好きものらしいわ。
気持ち悪いったらないわ!
美人で、頭もいいっていうならまだしもよ!
あの人、どちらかというと、
醜い仲間よね、、」
母の手厳しい話は、延々と続きそうで、キッチンに行って、夕食の支度を始めたのですが、
父が亡くなってから、
美人の母は沢山の再婚話があったようだけれど、
大学の教授として、恥ずかしいことは出来ませんと、全て断って生きてきていて、
だらしない生き方の人を忌み嫌う。
そして、大事に育てた一人娘は、
独身のまま。自分の血を引く孫が欲しかったようだけれど、母の望みはプッツリ断たれてしまっている。
母にすると、あたり一帯、自分の厳しい考えにマッチする人はいないのだろう。
あたりの尾ひれがついて大きくなった噂話を聞いて、怒りしかないようで。
母のように厳しい生き方は、それはそれで、
私には、
理解し難いのだけれど。
巨体の働かない旦那さんと暮らしている、ケバケバ化粧のアキヤマさんは、
まだ別れましたの噂は流れていません。
「きっと、他人には分からない良さがあるのね、
あの、ケバケバさんは、、」
そう言っておさめようとしましたが、かえって、手厳しい母の神経を刺激したようで、
「あなたは、おかしな噂の的にならないように、
だらしない事はしないようにして下さい!
吉田さんと、ダラダラと一体何年間付き合っているんですか?吉田さんを調べたの?
夜遅くなる時は、タクシーで帰りなさい、吉田さんに夜中に送ってもらうのは止しなさい!
必ず誰かが見ています。」
はーい!と返事をしつつ、、吉田さんとは、何年間付き合ってきたのかと、
母に云われて、それはそれで、噂の種にはなりそうで。
自分の事ながら、困ったものだと、
呑気に、、考えてしまう。
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