創作・・「陽子」(他小説投稿サイトに公開済み)

彼女は、私を親友としている。
ミッション系の幼稚園、小学校、中学校までは、一緒だった。クラスは違ったけれど、家が近いせいもあり、仲良しといえば仲良しであって。
しかし私のほうでは、幼いころ一緒に遊んだ記憶もない。
嫌いな人ではないので、親友ですと云われて困ることもないのですが。
高校からは離れて、大学も違い、
彼女は大学を卒業すると、まもなく結婚した。
3月に卒業して、5月5日には、結婚した。
披露宴には招待されて、友人代表として挨拶をしてほしいとのことで、スピーチをした。
ところが、彼女は、まもなく離婚した。
5月に結婚して、確か、新しいマンションを相手方の両親が買ってくれたとかで、手紙もきていた。
私としては、しっかりしていて、几帳面で、真面目すぎるくらいに真面目で、計画的な陽子だから、気ままで、自分勝手な私とは正反対の性格だから、真面目に奥様業をつつがなくこなして、幸せでいるだろうと思っていたので、私の母から、陽子が結婚3ヶ月で離婚したと聞き、耳を疑った。
陽子に電話しても出ず、メールしても返信はなかった。
それから、現在に至るまで、彼女は独身であり、働くこともない。
彼女の親すら、離婚の原因は知らず、友人達も誰1人知らない。
私は、言いたくない事々を詮索したくないので、あれから何十年経つのだけれど、離婚の理由は知らないでいた。
彼女が3ヶ月だけ結婚生活をしていた男性を後に、私は仕事の関係で知ることになったが、陽子と離婚してから、まもなく再婚して、子供も3人、みな今では成人している。
私の見る限りは、特に癖のない普通の男性に見えるのだけれど。相性のようなものがあるので、こればかりは、他人には解らないことだと思うが。
陽子は父親は亡くなり、母親と暮らしていて、母親は多少認知症のきらいがあるのか、介護の人が通ってきている。
陽子は私とスーパーなどで会うと、
「老老介護よ!」と、特にイヤな風もなく、さらっと言ってのける。
一切社会に出て働くこともなく、
親元で暮らしてきて、母親と2人になり、3軒長屋のような2階建てのアパートの家賃収入と、母親の年金で暮らしている。
あと数年で、陽子も年金をもらえるはずだけれど、額は少ないと陽子自身が言っていた。
陽子は慎ましく、几帳面に計算して暮らす生活に慣れているので、心配はないと断言する。
そして、離婚のときから、何十年も経った今、
陽子は、私に、
「りな、、あなたは、私に一度も訊かなかった。
離婚してきて、実家に籠もっている時、
りなは、チャイムを鳴らして、母が出ると、
陽子って名前、太陽の陽じゃないの?
小学生の卒業文集に書いてた。
名前のように太陽のように明るく生きたい!って!
それを思い出して、何があったのか知らないけど、
明るく生きて!
そう伝えて!って。母は泣いてた。
リナはそのあと、アメリカに行ってしまって。
話したくても、リナはいない。それでね、いろんなこと含めてね、
実家で私らしく生きよう!って決めたのよ!
だらしない人だったから、結婚したその日から、イヤだった。箸の持ち方、食べ方、靴の脱ぎ方、
ドアの閉め方、細かいことが、全部イヤだったのよ。靴下の脱ぎ方、髪も、家の中ではぐちゃぐちゃ。
我慢の限界だったのよ。このまま一緒にいたら、私は病んでしまうと思ったの。」
やはりかと思った。几帳面すぎて、
朝一緒に並んで登校する時も、私は疲れた。
何時何分に校門をくぐる。
玄関では、外靴の底をトントンとはたいてから、靴箱へ。
全てに整い過ぎていた。長い髪を、きれいにオサゲに編んでいて、後ろの分け目は真っすぐで、美し過ぎた。
私は風が強いと、ぐちゃぐちゃに乱れてしまう髪に平気でいるのを、陽子はランドセルからクシを出して、整えてくれた。
早生まれの私は小さく、陽子は5月生まれ。背も学年で一番大きかった。独りっ子の陽子は、小さな私をまるで妹と錯覚しているかのようだった。
私は、離婚の原因は、陽子のあの異常なくらいの几帳面さにあるのではと考えていた。
最近になって陽子に、さらっと告げられて、やはりと思ったのだけれど、陽子は実家で両親と暮らし、幸せだったらしい。自分がイライラさせられることなく、清潔に几帳面に計画的に暮らしてこられたから。
まんべんなく、全てに完璧に。
中学校までは私達は同じ学校に通っていた。
陽子は、体育も音楽も数学も社会も、全てまんべんなく平均的に出来る生徒だった。
私は数学や理科や英語は、ずば抜けて学年でもトップだったけれど、体育はダメ、地理はダメと、ダメな教科は、そこまで無視するのか!!と担当教師に憎まれるまで、出来ない生徒だった。何と罵倒されようが、嫌いなことにエネルギーを使いたくなかった。
性格がまるで違う陽子と私。
陽子は自分は姉の感覚で私と接していたので、私が多少だらしなくても許せて、結婚相手のだらしなさは許せなかったらしいから。
何が違うの?と私は思ってしまう。
ただ、陽子は、私を唯一の親友としている。
夫が亡くなったとき、茫然自失状態にいる私を、毎日、毎日訪れて、静かに励ましてくれたのは陽子だった。
何ひとつ、説教じみたことは言わずに、
毎日、やってきて、
珈琲を淹れてくれて、私が好きな硬い皮のシュークリームを焼いてくれて、役所への手続きも一緒に行ってくれた。
お寺さんや、墓地にも、常に、まさに姉のようにそばに一緒に居てくれた。
太陽の陽とは少し違い、穏やかに、静かに、慎ましく、そばにいて、励ましてくれた。
家庭的で家事万端全て完璧にこなし、清潔に美しい、
誰がみても、奥様向き、家庭の主婦向きの女性なのに。
陽子は父親を看取り、今は少し認知機能が低下した母親と静かに暮らしている。独身を通した。
私は、いつか、きっと、陽子を励まして力になってやりたいと、考えている。
気ままで自分勝手な私を、唯一の親友としてくれている陽子には、
感謝している。
このブログへのコメントはmuragonユーザー限定です。